分島花音 LIVE TOUR 2016『Unbalance by Me 』東京公演

感想

―そこに立っていた彼女はもうスターだった。

 分島花音、自身初のツアーファイナルを飾った「Unbalance by Me」Zepp DiverCity公演、その幕開けは落ちた照明から一転して明るく「無重力」。出てきた彼女は白の衣装を身に纏い、観客で埋まったフロアを見て驚きつつも次曲「killy killy JOKER」へ。人気曲から観客もヒートアップしていく。
 そこからはスウィングジャズゾーン。大阪に引き続きホーン隊を引き連れているということで、バンド全体として楽しめるよう、間奏ではどんどんプレイヤーのソロ回しが入ってくる。さらに「ファールプレーにくらり」がミドルテンポのスウィングジャズに様変わりするなど小粋なアレンジもライブならではだ。そして「Right Light Rise」では観客を巻き込んで旗上げ。今回の公演は演出上サイリウムを誰も降っておらず、光の面でも魅せてくれた。
 そして落ち着いた楽曲のコーナーへ。「オデット」を時に力強く、時に妖艶に歌い上げた後は「君はソレイユ」。彼女の歌声は詞を伴った時に何か力を得るのだろうか。CDでは得ることのできない一瞬一瞬の響きが心に入り込んでくる。心なしかこの時の歌い方はCD収録のそれよりも高揚していた。ステージ上の笑顔が眩しい。
 唐突に、白の衣装に似合う白のセミアコギターを持ち出して、昔の話を始める。15歳の頃挫折したギター。シンガーソングライターになりたくて、音楽を仕事にしたくて、上手くいかなくて、もがいてきた日々。そして今日、Zeppのステージで初心に帰った彼女は「あんまり上手くはないけれど」と付け加えながらギターをかき鳴らす。

「モンスター・スター」。彼女はこの瞬間確実に、歌詞の通り彼女自身が描いたスターだった。

暗転から一転、後半戦は「サクラメイキュウ」「Love your enemies」と畳み掛ける。さらにキラーチューン(と筆者は思っている)「ツキナミ」で会場のボルテージは最高潮に。作詞作曲も本人が手掛ける中、自らの伝えたい歌の表情そのもので届けられる、このライブの醍醐味の一つだろう。

シンガーソングライター分島花音が書く"心臓の音楽"と、求められて原作を基にして書く"脳の音楽"。その音楽たちはまったくジャンルが統一されておらず、まさにアンバランス。でもそんな音楽でツキナミな毎日を今だけは特別にしたい。飾りのない言葉から始まったのは「Unbalance by Me」。こういったまっすぐさも彼女の魅力なのだろう。そして最後は「自由落下とピノキオ」。インタビューの中で『この曲があるから私はきっと大丈夫だと思えるようになりました』と話しているこの曲は、本当に辛いときに心にそっと寄り添ってくれる優しさを持ち合わせている。

本編はそこで幕を閉じた。

 アンコールの声が響く中、Tシャツに着替えて再登場。「moonlight party」で会場を沸かす。

『誰一人、離したくないから!』(曖昧だけどね)

と言い放ち、最後に「プリンセスチャールストン」。恒例の観客に歌わせるところを今回は『Unbalance by Me!』と歌わせる。曲中のソロ回しではホーン隊(Tb. 東條, Tp.湯本, A.Sax 横田)の超絶テクから、堅実なプレイで飛び回るコードを下支えしてきたBa.時光、暴れるギターソロから細やかなアルペジオまでを表現しきったGt.堀崎、ソロではセットのリングまでをもパーカッションと化したDr.池田、そしてバンマスであり分島の音楽には欠かせないPf.として活躍したsugarbeansがこれでもかというほど気持ちを、音をぶつけてくる。
観客も盛大な拍手、声援を送る。これだ。この感覚が忘れられないから僕たちはまたライブに来るんだ、という当たり前なことを思い出させてくれる。

分島花音、彼女は8年というデビューからの長い時間の中で、一瞬をこれだけ魅せることができるミュージシャンになった。
これだけ濃縮された"一瞬"、楽しみに来ないのは損をしていると言わざるをえない。
12月のライブが今から待ち遠しい。

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