fhána 5th Anniversary SPECIAL LIVE

感想

fhánaというバンドは、多様化した音楽シーンの中でも少し変わった存在である。

アニソンというフィールドをメインに活躍していながらも、どこか捻りの効いた、ロックともエレクトロニカともクラブミュージックともとれるような、ジャンルレスな雰囲気の楽曲が多いのは、もともとインターネット上で別々に活動していた、世代が異なる3人のクリエイターがSNSや動画コミュニティサイトを通じて出会い結成されたという経緯から来ているのかもしれない。

そんなfhánaがランティスよりメジャーデビューしてから5年と少し。
その5年分のストーリーの一つの区切りであり、そしてまた新たなる始まりであったのが、「fhána 5th Anniversary SPECIAL LIVE STORIES」である。

これまでのfhánaのライブでは、リーダーの佐藤さんから、アルバムの、あるいはライブのコンセプトが語られたり、メンバーのプライベートや遠征先での笑い話など、楽曲のおしゃれさや緻密さとはまた違った、ゆったりとしたMCが挟まることが多く、それもまたこのバンドの魅力の一つであった。

しかし、今回のライブではそれをほぼ削ぎ落とし、タイアップシングル曲+ベストアルバムの表題曲の計14曲で構成された「First Act」、アルバム曲とカップリング曲、インディーズ時代の曲とで構成された「Second Act」、そして「Last Act」という三部構成。
ここまで攻めたセットリストはこれまでまずなかったであろうし、まさに怒涛としかいえない構成。あまりの熱量に圧倒されてしまいそうだった。

まず「First Act」。
タイアップシングルだけで固めると、ここまでのものが出来上がるのか、と、曲の強さを改めて認識させられた。
個々の楽曲はタイアップ先のアニメの世界観をもとにしているはずなのだけど、「Calling」→「ワンダーステラ」→「tiny lamp」→「Hello! My World!!」の流れがまるで一本のストーリーであったかのような連続性をもって聞こえたのであった。
それはやはり同じ作詞家(林英樹氏)が一貫して作り上げてきたものによるものなのかもしれないし、タイアップでありながらもfhánaの曲であるという芯を貫いているからなのかもしれない。

「虹を編めたら」→「わたしのための物語」→「青空のラプソディ」の流れも本当によかった。それぞれの色、それぞれの物語、そしてそれぞれが同じ場所に集う。
いつかは別れてしまうのだろうけど、今この時を楽しもう、そんなメッセージが込められているかのような曲のつなぎだったように思う。

続く「Second Act」。
このパートは、fhánaというバンドから見た世界の姿、すなわちfhánaの世界観をそのまま表現したかのようなセットリストであったように思う。
過去のアルバムやツアーで佐藤さんの口から繰り返し語られてきたテーマが、この9曲のなかに凝縮されていたかのようであった。

灰色の世界に色をつけて、これまで歩いてきた道のりと、この先歩いていく道のりを、この「世界線」を肯定し、自分だけの世界地図を手にして歩いてきてたどり着いた場所から見えたものは、矛盾だらけながらも美しさを湛えた世界の姿だった。
…我ながらちょっとクサいことを書いたけども、嫌なこととか不確かなこととか、理不尽なことがたくさんあるこんな世界でも、自分の心の持ちようでいくらでも違って見えるんだよ、と、fhánaの楽曲は伝えてくれているように感じるのだ。

そして「Last Act」。
「World Atlas」で大団円を迎えたかと思えば、今のfhánaのカタチができたきっかけの一つであるFLEET時代の楽曲「Cipher」へと続き、そして最後の曲はfhánaとして最初に発表した曲である「kotonoha breakdown」。
原点に一度立ち帰り、「Our story goes on…」と締めるなんて、なんてエモいのだろう、と。

怒涛のようなセットリストだったという感想がまず出てくるけども、メンバーの演奏もいつも以上に熱がこもっているように見えた。

佐藤さんは今回もキーボードにギターにコーラスにとマルチプレイヤーっぷりを発揮。
最大の見せ場ともいえるであろう「Relief」でのシンセソロであったり、「ムーンリバー」や「little secret magic」の間奏では、プレイヤー同士のぶつかり合いのような和賀さんとの掛け合いが見られて本当にアツかった。

和賀さんはいつも以上にエモ散らかしていた。「Calling」や「ムーンリバー」、そして「kotonoha breakdown」での感情が炸裂するかのような爆音は、いつ聞いても泣きそうになってしまう。

そしてケビンくんは客席を煽ったり、青空のラプソディでキレキレのダンスを披露したりと、MCでの語りがなくてもムードメーカーとしての地位を確立したかのように見えた。そしてケビンくんが作り出す「いろんな音」は、やはりfhánaの曲に独特の雰囲気を与えてくれる重要な存在なのである。ケビンくんはやっぱりfhánaの顔なのだ。

そして佐藤さんに「ここまでほどんどMCなしで駆け抜けてきましたが……とわなさん大丈夫ですか?」と聞かれ「佐藤さんがそれいいます?w」と笑いながら返していた、それくらいずっと歌いっぱなしだったとわなさん(たぶんMC削って歌を詰め込むって言い出したの、佐藤さんなんだろうなー……)。その長丁場でもまったくブレることがないどころか、むしろどんどん凄みを増していったかのように聞こえたそのボーカルは、もしかすると私がこれまで見てきたfhánaのライブの中でいちばん心に響いた歌声だったかもしれない。

fhánaの楽曲は歌詞を読み解くように聴いても、メロディに身を任せて自由に身体を動かして聴いても、それぞれ違った楽しみ方があるように私は思う。
自分の部屋で、移動中の車内で、そしてライブで、それぞれのシーンに合わせたいろんな聴き方ができるのだ。
そして、歌詞はいろいろな解釈が成り立つものだと思うし、いろいろなジャンルの曲が揃っているから、きっとそれぞれの人にとってそれぞれの「好きな一曲」が見つかるのではないかな、と思っている。あくまでもファン目線での個人の感想ではあるけども。

でも、だからこそ、fhánaの楽曲は私の心のなかにすっと入ってきたのだろうし、そう感じた人が私以外にもきっとたくさんいたからこそ、この日、中野サンプラザという過去最大クラスのキャパシティでの単独ライブ開催に結び付いたのだろうと信じている。

これからも、fhánaの楽曲とともに、自分の物語を歩んでいくことになるのだろう。
そしていつの日かまた、それぞれの物語が一か所で合流する時を楽しみにしている。

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